個人間で車を売買する前に知っておくべきこと
業者を通さずに売買するメリット・デメリット
個人同士で車を売買する最大のメリットは、中間マージンがかからないことです。ディーラーや買取業者を挟まない分、売る側は高く、買う側は安く取引できる可能性があります。また、条件交渉も自由度が高く、柔軟なやり取りができる点も魅力です。
一方でデメリットもあります。名義変更や契約書の作成、トラブル時の対応などをすべて自分たちで行う必要があるため、知識がないと不安になりがちです。整備歴や修復歴に関するトラブル、支払いの未払いなどのリスクもあるため、注意が必要です。
トラブルを防ぐために理解しておきたい基本ルール
個人間売買でトラブルを避けるためには、以下の3点を守るのが基本です。
- 契約内容は書面に残すこと
口約束は後から「言った・言わない」になりがちなので、売買契約書を作成し、お互い署名・押印しましょう。 - 代金の支払いや車両引き渡しは慎重に行う
お金を先に払ったのに車が届かない…というトラブルを避けるため、現車確認後の同時取引が安心です。 - 名義変更の手続きはすぐに行うこと
車の所有者が売り手のままだと、後のトラブル(税金・事故の責任)につながるので、引き渡し後は速やかに手続きを行いましょう。
個人間で車を売買する際に必要な書類とは
自動車検査証(車検証)の確認
車検証は、その車の所有者情報や使用者情報、車両の基本情報が記載された大切な書類です。売主が名義人であることを確認し、内容に不備がないかをチェックします。車検が切れている車も売買可能ですが、名義変更の際に手続きがやや複雑になるため注意しましょう。
自賠責保険証明書の用意
自賠責保険は法律で加入が義務づけられている保険です。売買時には現在有効な自賠責保険証明書を買主に渡す必要があります。車検が残っていれば自賠責も有効なはずですが、念のため有効期限を確認しておきましょう。
自賠責保険証明書の用意
名義変更の際には、売り手・買い手の**印鑑登録証明書(発行から3か月以内)**が必要です。これは市区町村役所やマイナンバーカードを使ってコンビニでも取得可能です。普通車を取引する場合は実印も必要になるため、事前に登録を済ませておきましょう。
譲渡証明書の作成と記入例
譲渡証明書は、車を「誰から誰へ渡したのか」を記録する重要な書類です。運輸支局の窓口や公式サイトでフォーマットをダウンロードできます。記入ミスがあると名義変更できないため、以下の点に注意して書きましょう。
- 売主・買主の氏名、住所
- 車台番号の正確な記載
- 売主の実印(軽自動車は不要)
リサイクル券の確認と受け渡し
リサイクル券とは、車の廃車時に必要なリサイクル料金が支払われていることを証明するものです。通常は車検証と一緒に保管されていますが、紛失している場合は再発行できないため、事前に確認しておきましょう。
売主がリサイクル料金を預託している場合、売買価格に上乗せして請求することもありますので、金額の明示と合意を取ることが大切です。
書類一覧【売り手・買い手別に解説】
売り手が準備する書類
- 自動車検査証(車検証)
- 自賠責保険証明書
- 印鑑登録証明書(普通車)
- 実印(普通車)
- 譲渡証明書
- リサイクル券
- 委任状(代行時)
買い手が準備する書類
- 印鑑登録証明書(普通車)
- 実印(普通車)
- 車庫証明(普通車)
- 住民票(軽自動車の場合)
- 自動車税・環境性能割申告書(自治体提出用)
名義変更に必要な共通書類
- 譲渡証明書
- 印鑑登録証明書(双方)
- 車検証
- リサイクル券
- 申請書類一式(運輸支局または軽自動車検査協会)
車売買に関する法律と規制の基礎知識
道路運送車両法のポイント
この法律は車両の登録や名義変更、検査制度に関する基本的なルールを定めています。個人売買でも、名義変更や構造変更があった場合は必ず届け出が必要です。届け出を怠ると、無登録車両として罰則の対象になることがあります。
自動車リサイクル法・自動車税環境性能割の影響
自動車リサイクル法では、車の購入時・所有時にリサイクル料金の預託が義務付けられています。また、環境性能割は新たに車を取得する際に、燃費性能などに応じて課税される制度です。買い手が新たに登録する際に影響があるため、費用の把握が重要です。
自動車取得税の納付について
自動車取得税は2021年に廃止され、現在は「自動車税・環境性能割」に統合されています。現在の制度では、購入車両の環境性能によって納付金額が決まります。排ガス性能や燃費基準を満たすと非課税になる場合もあります。
売買金額によっては課税対象になる?
基本的に、個人売買によって発生した利益(売却益)が年間20万円を超える場合、所得税の課税対象になる可能性があります。ただし、自家用車を通常利用していたケースではほとんどの場合課税されないと考えられています。
名義変更に必要な法的手続き
車の名義変更は、普通車であれば運輸支局、軽自動車であれば軽自動車検査協会で手続きを行います。法律上、変更は譲渡から15日以内に届け出る必要があります。期限を過ぎると、前所有者に自動車税が課せられ続けるなどのトラブルに発展します。
個人情報保護法の考え方
売買に関する書類には、氏名・住所・印鑑証明などの個人情報が含まれます。これらの情報は取引終了後に適切に処分し、第三者に漏洩しないよう注意しましょう。売買契約書の写しなどを保管する場合も、鍵付き保管庫や暗号化された電子ファイルで管理するのが望ましいです。
売買契約書の作成方法と注意点
契約書に記載すべき基本情報
個人間で車を売買する際、売買契約書には最低限以下の情報を記載する必要があります。
- 売買日(契約成立日)
- 売買当事者の氏名・住所・連絡先
- 車両情報(車種・型式・車台番号・初年度登録・ナンバーなど)
- 売買金額
- 支払方法(現金・銀行振込など)
- 車両の引き渡し日と場所
- 名義変更の期限や方法
- 瑕疵担保責任に関する取り決め
これらを明記しておくことで、後々の誤解やトラブルを防ぐことができます。
ひな形・テンプレートは使っていい?
売買契約書の雛形やテンプレートを利用するのは問題ありません。むしろ、必要項目が漏れるのを防ぐために活用するのがおすすめです。
国土交通省や自動車関連の大手サイト、行政書士事務所などが提供しているフォーマットは信頼性が高く、入力欄に沿って記入すれば基本的な契約書は完成します。
ただし、テンプレートの内容は自分たちの取引に合わせて必ずカスタマイズしてください。
条件や特約事項の定め方
標準的な契約内容に加えて、当事者同士で取り決めた特別な条件(特約事項)がある場合は、必ず契約書に明記します。例えば以下のようなケースです。
- 名義変更の期限(〇日以内に行う等)
- 引き渡し時に整備やクリーニングを済ませること
- 自賠責保険の残り期間を考慮した価格調整
- 車に不具合があった場合の対応(返金・修理負担など)
曖昧な表現を避け、具体的な日付や金額、責任の所在をはっきり書いておくことが大切です。
条件や特約事項の定め方
売買契約書には、売主・買主双方の署名および実印(軽自動車の場合は認印でも可)が必要です。
署名と押印があることで、契約内容に双方が合意したという法的な証明になります。将来、万が一トラブルが起きた際の証拠資料として効力を持ちます。
紙で作成する場合は、必ず2部作成し、売主・買主が1部ずつ保管するようにしましょう。
契約不履行時の対応策
もし契約内容に違反(不履行)があった場合に備え、対応策や責任の所在も明記しておくことが理想的です。たとえば以下のような項目です。
- 名義変更を行わなかった場合の罰則
- 支払いが滞った場合の返還義務
- 瑕疵(見えない故障など)が発覚した場合の責任分担
契約書内に「この契約に違反した場合、損害賠償請求を行うことができる」と記載しておけば、相手方にプレッシャーをかける抑止力にもなります。
契約書の保管とその方法
契約書は最低でも5年間は保管するのが安心です。名義変更や自動車税の通知、後の紛争時に必要になる可能性があるためです。
保管方法としては
- 紙媒体:クリアファイルなどに入れて保管
- 電子化:スキャンしてPDF化し、クラウドやPCに保存
実印を使用した場合やトラブルの可能性がある取引では、原本(紙)の保管を優先しましょう。
必要書類が整った後の手続き
運輸支局での名義変更手続き
車の正式な所有者を変更するには、運輸支局での名義変更手続き(移転登録)が必要です。
手続きに必要な主な書類
- 車検証
- 譲渡証明書
- 印鑑登録証明書(発行から3か月以内)※普通車の場合
- 委任状(代理人が手続きする場合)
- 自動車税・自賠責保険証明書
- 手数料納付書(運輸支局で入手)
手続きは、車の使用の本拠地(住所)を管轄する運輸支局で行います。書類に不備があると受理されないため、事前に確認してから訪問しましょう。
自動車税・自賠責保険の名義変更
名義変更が完了すると、自動的に自動車税の請求も新しい所有者に切り替わります。ただし、年度途中の売買では月割計算で清算することが一般的です。個人間売買ではこの点を売買価格に含めて調整することが多いです。
自賠責保険については
- 保険期間が残っている場合、名義変更(承認請求)を保険会社に連絡すれば継続利用が可能です。
- 保険証券と一緒に譲渡先の情報を提出する必要があります。
廃車手続きの注意点
もし売買対象の車が 使用できない状態や車検切れで、買い手が部品取りや処分目的で購入する場合、「一時抹消登録」または「永久抹消登録(解体届出)」が必要です。
主なポイント
- 一時抹消登録:一時的に使用を中止し、ナンバーを返納
- 永久抹消登録:解体業者に引き渡し、完全に登録を抹消
買い手が「名義変更せずに乗る」などと申し出た場合でも、必ず正式な廃車または名義変更手続きが必要です。所有者のままでは、税金や事故の責任が売主に残る恐れがあります。
車庫証明の取得方法
車を購入・登録するには、車庫証明(自動車保管場所証明書)が必要です。ただし、軽自動車の場合は一部地域で不要なケースもあります。
申請先は 車の使用場所を管轄する警察署 で、以下の書類を提出します。
- 自動車保管場所証明申請書
- 保管場所使用承諾証明書(または使用権原書類)
- 所在図・配置図
- 印鑑
発行までは通常 3〜7日程度かかりますので、名義変更と併せて計画的に進めましょう。
住民票の変更が必要な場合
名義変更手続きや車庫証明の取得の際、本人確認書類として住民票が必要になる場合があります。
主なケース
- 印鑑登録がされていない新住所での名義変更
- 自動車税の納税先変更
- 軽自動車の名義変更(住民票で本人確認することが多い)
また、住所が旧住所のまま車検証に登録されている車の場合、住民票の「除票」や「履歴付き住民票」を提出して住所変更の履歴を証明することもあります。
トランスファーのための費用
個人間売買で必要となる主な費用は以下の通りです。
項目 | 費用の目安 |
---|---|
名義変更手数料(登録手数料) | 約500円(普通車) |
自動車取得税(現在は環境性能割) | 取得価格に応じて課税(非課税の場合も) |
車庫証明申請手数料 | 約2,000円〜3,000円 |
ナンバープレート再交付 | 約1,500円〜2,000円 |
自賠責保険の承認手続き料 | 無料〜500円(保険会社により異なる) |
印鑑登録証明書取得費用 | 約300円(1通) |
すべての手続きを代行してもらうと、1万円〜2万円の手数料がかかることもあります。自分で手続きを行えば、費用を抑えることができます。
実際の引き渡し方法とスムーズな取引の進め方
お金の受け渡しタイミングはいつがベスト?
車の代金受け渡しは、原則「名義変更手続き前に全額受け取る」のが安全です。
タイミングの例
- 代金を「契約時に一部」「名義変更完了後に残額」など、分割で合意することも可能。
- 現金手渡しはトラブルの元になりやすいため、銀行振込を推奨。
- フリマサイト等を利用する場合、エスクローサービス(代金一時預かり)を使うのも安心です。
注意: 名義変更前に車両だけ渡してしまうと、代金未払いなどのリスクがあります。
引き渡し時に確認すべきポイント
引き渡し時には、以下の点を確認しましょう
- 車体の傷・凹みの再確認(売買前後のトラブル防止)
- メーターの走行距離(記録しておくと良い)
- タイヤの状態・スペアキーの有無
- オーディオ・ナビ・ETCなどの装備品動作確認
- ガソリン残量(トラブル防止のため撮影推奨)
スマホなどで写真を撮影し、状態を記録しておくと後の証拠になります。
鍵・書類・ナンバーなどの最終確認
以下の引き渡し物をチェックしましょう。
項目 | 備考 |
---|---|
メインキー | スペアキーがある場合は一緒に渡す |
車検証 | 車両と一緒に必ず引き渡す必要あり |
自賠責保険証 | 有効期限を確認 |
整備記録簿・取扱説明書 | あれば一緒に渡すと信頼度アップ |
ナンバープレート | 名義変更時に返納・交換が必要な場合あり |
書類はクリアファイル等でまとめて渡すと丁寧です。
引き渡し後の名義変更完了通知のチェック
名義変更が完了したかどうかは、以下の方法で確認できます。
- 買い手から「新しい車検証のコピー」をもらう(これが一番確実)
- 登録日や登録番号をメモしておく
- 万が一名義変更が行われていない場合、税金や違反通知が元の所有者に届く可能性があります
名義変更が終わるまで、売り手は車の所有者として法的責任が残ります。特に個人間売買では、名義変更完了まで売主が陸運局同行するケースも多いです。
車両状態の再確認と試乗
引き渡し前には、試乗を行うことで機械的な不具合がないか確認できます。
チェックすべきポイント
- エンジンの始動・アイドリング
- ブレーキ・アクセルの効き
- ハンドル操作・違和感
- 警告灯の有無
売り手も一緒に乗って確認することで、後のクレームを防ぐことができます。
保証やアフターサービスについて
個人間売買では基本的に保証やアフターサービスはありません。そのため、次のような取り決めを事前にしておくと安心です。
- 「現状渡し」と明記(契約書に記載)
- 故障発生時の対応(何も負わない旨を合意しておく)
- 数日間の「クーリングオフ的な期間」は基本的にない
ただし、明らかな虚偽説明やメーター改ざんなどがあった場合は法的責任が発生する可能性があります。
保証やアフターサービスについて
トラブル防止のために実践すべきこと
- 契約書を交わす(内容を明文化する)
- 状態写真・動画の記録を残す
- 書類の控えは必ず保管する
- 名義変更完了の確認を怠らない
- 金銭のやり取りは記録を残す(振込明細など)
口約束ではなく、書面で証拠を残すことが重要です。
次回車検時の注意点
買い手側の視点での注意になりますが、売買時に次回車検の有無・期限を確認し、以下を伝えておくと親切です。
- 車検満了日(車検証に記載)
- 車検の残期間(例:あと6か月)
- 受けた整備内容や不具合箇所の情報
- 点検整備記録簿の有無
車検が近い車を売る際は、「車検整備付き」などの表記があると買い手にとって安心材料になります。
まとめ|個人間売買を安心・安全に進めるコツ
個人間での車の売買は、中古車店や買取業者を介さずに取引できるため、金銭的なメリットが大きい反面、手続きの煩雑さやトラブルのリスクも伴います。安心・安全に進めるためには、以下のようなポイントを意識しましょう。
- 契約内容は必ず書面で残す
- 代金と名義変更のタイミングに注意する
- 書類や車両の状態を写真で記録する
- 相手の身元を確認し、信用できる相手と取引する
「自己責任」であることを忘れず、慎重に進めることが大切です。
プロに相談した方がいいケースとは?
以下のようなケースでは、自分で進めるよりもプロに相談・依頼するのが安全です。
ケース | 理由・背景 |
---|---|
名義変更が初めてで不安 | 書類不備や手続きミスでトラブルになりやすい |
相手が遠方に住んでいる | 陸送や書類送付に手間とコストがかかる |
売買金額が高額(100万円以上など) | 万が一の代金未払いは大きな損失に |
相手が法人または事業者 | 契約条件や保証に関して明文化が必須 |
車両の状態に不安がある | 売却後に「故障していた」と言われる可能性 |
このような場合は、行政書士や自動車手続き代行業者、中立的なエスクローサービスの利用も検討しましょう。
名義変更が面倒な方は「買取」も選択肢に
もし、「名義変更や書類の準備が面倒」「手続きに不安がある」「相手と連絡を取り続けるのが負担」と感じる方には、買取業者への売却も一つの選択肢です。
買取のメリット
- 名義変更・抹消登録などをすべて代行
- 売却後のトラブルリスクがほぼゼロ
- 即日現金化が可能なケースも多い
- 面倒なやり取りが不要
特に、「車検が切れている」「長期間乗っていない」「ローンが残っている」などの車は、個人売買よりも買取業者の方がスムーズに対応してくれるケースもあります。