全損とは?意味と判断基準をわかりやすく解説
車が大きな事故や災害に遭ったときに「全損」という言葉を耳にすることがあります。しかし、「全損」とは具体的にどのような状態を指すのか、保険や手続きにどんな影響があるのか、正確に理解している方は意外と少ないかもしれません。
全損の定義|「経済的全損」と「物理的全損」の違い
「全損」には、大きく分けて以下の2つの種類があります。
● 物理的全損
車が大破して修理が不可能な状態を指します。たとえばフレームが歪んでいたり、エンジンや駆動系が深刻な損傷を受けている場合など、安全性や機能面で再使用が困難なケースです。物理的に復元できないため、廃車が前提となります。
● 経済的全損
修理は可能であっても、その費用が車の時価額(市場価値)を上回るときに「経済的全損」と判断されます。保険会社は、修理よりも保険金を支払って処理するほうが合理的と考え、全損扱いにするのです。たとえば時価が30万円の車に50万円の修理費がかかるようなケースが該当します。
保険会社による全損の判断基準とは?
保険会社は「修理費の金額」と「車両の時価額」を比較して、全損かどうかを判断します。一般的な基準は以下の通りです。
判断基準 | 内容 |
---|---|
時価額 > 修理費 | 修理可能 → 保険適用内で修理される(分損) |
時価額 ≤ 修理費 | 経済的全損として処理される |
修理不能 | 物理的全損として処理される |
保険会社によっては、修理費が時価額の70~80%を超えると全損扱いとするなど、独自の判断基準がある場合もあります。
また、全損の判断時には、修理費に加えてレッカー代・代車費用などの関連費用も含まれることがあり、これが総額を押し上げて全損と判定されることもあります。
全損扱いになる主なケース(事故・災害など)
全損扱いになる状況は、事故だけに限りません。以下のようなケースが代表的です。
- 交通事故による大破
フロントやリアの大きな損傷、横転、衝突などにより修理が高額になるケース。 - 火災や爆発による焼損
エンジンルームや車内全体が焼失した場合は物理的全損となります。 - 水没や冠水によるエンジントラブル
床上浸水やエンジンが水を吸い込んだ場合、見た目はきれいでも機能面で致命的な損傷が発生します。 - 台風や地震など自然災害による損傷
倒木の直撃や地割れ・地滑りによる損傷も全損の対象になることがあります。
このようなケースでは、保険会社が実車を確認した上で、修理可能性と費用を総合的に判断し、全損かどうかが決まります。
全損事例の紹介
実際にあった全損事例をいくつかご紹介します。
事例①:追突事故で経済的全損
軽自動車が信号待ち中にトラックに追突され、後部が大破。修理費は約40万円。一方で車の時価は約25万円だったため、保険会社は経済的全損として扱い、車両保険金を支払って終了。
事例②:ゲリラ豪雨で水没
大雨によって道路が冠水し、走行中にエンジン停止。車両は床上浸水しており、内部配線にも浸水が確認されたため、物理的全損扱いに。保険金は車両価格相当が支払われた。
事例③:エンジンルームの火災
中古で購入したSUVが走行中にエンジンから発火。消防によって鎮火されたが、エンジン・電装系は完全に焼損。修理不可能なため物理的全損とされ、全損保険金が支給された。
全損になったらどうする?まずやるべきこと
車が全損となった場合、感情的に動揺してしまうのは当然ですが、冷静に「やるべきこと」を順を追って進めることが大切です。
保険会社への事故報告手順
事故後は、なるべく早く加入している自動車保険会社に連絡を入れることが重要です。以下の手順に沿って進めましょう。
- 事故の内容を正確に伝える
事故の日時、場所、状況、相手の有無、被害の程度などを詳しく報告します。 - 写真や動画を撮影しておく
車両の損傷部分、事故現場の様子など、できる限りの記録を残しておくと、保険対応がスムーズになります。 - 相手の情報を確認(対人・対物事故の場合)
相手の氏名・連絡先・車両情報・保険会社などを控えておきましょう。 - 保険会社が指定する修理工場やレッカー手配
保険会社によっては提携工場への搬送を勧められることがあります。現場からレッカー移動が必要な場合は、保険会社に手配を依頼できます。
警察への届出と必要な書類
交通事故に遭った際には、警察への届出は法律上の義務です。物損事故であっても必ず通報し、現場検証を受けましょう。
警察への報告手順
- 110番通報で事故を報告
- 警察官の指示に従い、現場検証を受ける
- 事故証明書の発行を依頼する(後日受け取り)
事故証明書の取得が必要な理由
- 自動車保険(車両保険・対物・対人)の請求手続きに必須
- 廃車手続きにおいて事故車である証明として使用される場合あり
その他必要になる書類(保険・廃車関係で)
- 車検証
- 免許証のコピー
- 印鑑(認印または実印)
- 委任状(保険代理店・業者が代行する場合)
車の引き取り・保管の手配
全損となった車は、自走できないケースがほとんどです。そのため、事故後にはレッカーや積載車を手配して、車を安全に移動させる必要があります。
事故直後であれば、保険会社を通じてレッカー車を依頼するのが一般的ですが、JAFやロードサービスを利用する方法もあります。事故から数日経過してから引き取りを行う場合は、修理工場または廃車業者に直接手配を依頼する形になります。
引き取られた車の保管先としては、保険会社と提携している修理工場で損傷調査や見積もりを行うことが多くありますが、ユーザー自身が指定した修理工場へ搬送することも可能です。また、廃車や買取を希望する場合は、業者の保管ヤードに直接運ぶケースもあります。
なお、保管期間が長くなると、日数に応じた保管料が発生することもあるため、廃車にするか修理するかの判断はできるだけ早く行うことが望まれます。
全損確定後の選択肢|修理?廃車?売却?
保険会社が全損と判断した後、ユーザーは以下のような選択肢を検討する必要があります。
① 修理して乗り続ける
- 経済的全損であれば修理自体は可能。ただし修理費は高額。
- 保険金を受け取って自己負担で修理するケースもある。
② 廃車にする
- 物理的全損の場合はほぼ廃車一択。
- 自治体や業者を通じて正式な廃車手続きが必要。
③ 売却(買取)を検討する
- 全損車でも、パーツや素材・輸出用としての価値が残っていることが多い。
- 買取業者に相談することで、廃車よりも高く処分できる可能性もある。
このように、全損確定後も状況に応じた選択が可能です。修理費・保険金・車の価値を総合的に判断し、自分にとって最適な対応を選びましょう。
車が全損になった後の廃車手続き
事故で車が全損となった場合、保険会社の判断後に「廃車手続き」を進めることになります。
廃車手続きに必要な書類
廃車の種類によって必要な書類は異なります。車両が完全に使用不能な状態(物理的全損)であれば、「永久抹消登録」を行うのが一般的です。
永久抹消登録に必要な書類(普通車の場合)
- 車検証(原本)
- 所有者の印鑑証明書(発行3ヶ月以内)
- 所有者の実印
- ナンバープレート(前後2枚)
- 自動車リサイクル券(預託済みの証明)
- 委任状・譲渡証明書(業者代行の場合)
※軽自動車の場合は印鑑証明・実印は不要で、認印でも手続きが可能です。
また、事故でナンバープレートが破損・紛失している場合には、紛失届の提出や理由書の作成が必要になることもあります。
廃車手続きの費用と手数料
廃車手続きには一定の費用や手数料が発生する場合がありますが、条件次第で無料〜還付金が出ることもあります。
項目 | 費用相場(目安) | 備考 |
---|---|---|
自動車のレッカー移動 | 0〜2万円 | 距離により変動/保険適用あり |
解体・廃車手数料 | 0〜1万円程度 | 無料の業者も多い |
抹消登録の代行手数料 | 0〜5,000円 | 自分で手続きすれば不要 |
自動車税の還付手続き | マイナスの出費(還付あり) | 月割で戻る/軽自動車は対象外 |
重量税・自賠責の還付 | 解体届出が完了すれば対象 | 条件あり・早めに |
特に注意したいのは、「車検が残っているかどうか」。残期間によっては、自動車重量税や自賠責保険料の一部が還付される可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
廃車業者の選び方
全損車を廃車にする際、業者選びはとても重要です。単に手続きだけでなく、「引き取り」「書類代行」「還付金サポート」「買い取り評価」など、対応範囲が異なるためです。
廃車業者選びのポイント
- レッカー代無料・全国対応の有無
全損車は自走できない場合が多いため、無料引き取りがある業者が安心です。 - 廃車手続き代行の有無・手数料
書類準備や陸運支局への申請を任せられるか、費用はいくらかを確認。 - リサイクル料込み・還付金対応か
リサイクル料を請求する業者は避け、税金や保険の還付手続きに慣れた業者が望ましいです。 - 事故車でも買い取ってくれるか
損傷していても、パーツ価値や輸出用途で「買取額がつく」ケースも。買取査定も行っている業者を選ぶと、廃車より得をする可能性があります。 - 口コミ・実績・対応スピード
信頼性を確認するには、ネットの口コミや廃車台数実績を調べるのが有効です。
補足:自分で手続き vs 業者依頼
手続き方法 | メリット | デメリット |
自分で行う | 費用が抑えられる | 手間・知識・時間が必要 |
業者に依頼する | 書類・引き取り・抹消を丸ごと代行してもらえる | 手数料がかかることがある(無料業者も多い) |
全損時に受け取る保険金や補償
事故などで車が全損と認定された場合、車両保険に加入していれば一定の保険金が支払われます。しかしその金額や条件には注意点が多く、またローンが残っているケースでは別の対処も必要です。
車両保険が適用される条件と金額の目安
車両保険は「自己の車両に対する損害」に対して補償されるもので、単独事故・接触事故・災害などが対象となります。ただし、すべての損害が補償されるわけではありません。
適用される主なケース
- 交通事故による損傷(相手がいても自分にも過失がある場合)
- 自損事故(ガードレールとの接触、縁石への乗り上げ等)
- 台風・洪水・落石などの自然災害
- 火災・盗難・イタズラによる損害
適用されないことがあるケース
- 飲酒運転や無免許運転
- 故意による損壊
- 車両保険未加入・補償内容に「一般条件」が含まれていない場合
支払われる金額の目安
- 保険会社の査定による時価相当額(購入価格ではない)
- 車種・年式・走行距離・市場価値などをもとに決定
- 一般的には新車から3年で半額、5年で3割程度になることが多い
保険金の受け取りまでの流れ
保険金を受け取るには、保険会社の査定や書類提出を経て、正式な支払いが決定します。
- 事故報告・保険会社に連絡
- 損害状況の確認(現場写真・調査)
- 全損かどうかの判断(修理費 > 時価で全損)
- 支払い金額の提示(見積書・時価査定に基づく)
- 必要書類の提出(車検証・印鑑証明など)
- 保険金の入金(通常1〜2週間程度)
※全損となると、保険会社が車の所有権を引き取り、処分まで行うケースもあります。廃車や売却の意思がある場合は、事前に相談が必要です。
ローン残債がある場合の注意点
車のローンが残っている状態で全損になった場合は、通常の手続きに比べて少し複雑な対応が必要になります。特に注意すべきポイントは以下の通りです。
まず、ローンの支払い途中である車の多くは、所有権がローン会社や販売店にある「所有権留保型ローン」の形をとっています。この場合、車を廃車にしたり売却したりするには、ローン会社の同意が必要になります。
また、保険金の支払い額がローンの残債を下回る場合、保険金で全額を返済できず、差額は自分で支払わなければなりません。たとえば、ローン残高が80万円で保険金が60万円の場合、不足する20万円は自己負担となります。
さらに、所有権留保型ローンでは、保険金の支払い先が車の所有者であるローン会社となるため、保険金を自由に使えるわけではありません。保険金はまずローンの返済に充てられ、残金がある場合のみ手元に戻ってくる仕組みです。
こうした事情から、ローン残債がある場合は、早めにローン会社や保険会社に相談し、対応方針を確認しておくことが大切です。
全損車でも売れる?買取してもらえる可能性
全損=無価値と考えがちですが、実は状態によっては「事故車」として売れる可能性もあります。廃車と買取、どちらがお得になるかも含めて見ていきましょう。
全損車を買い取ってくれる業者とは?
事故などで大きなダメージを受けた車でも、次のような業者が買い取ってくれるケースがあります。
- 事故車買取専門業者:損傷車両の再生や部品取り用として取引
- 輸出業者:国内基準では廃車でも、海外では再利用可能な場合あり
- 廃車買取業者(解体+買取):鉄資源・部品・再販を目的に買い取り
これらの業者では、自走不能車でもレッカー引き取り無料・手続き代行込みのところが多く、手間をかけずに処分できるメリットがあります。
パーツ取り・輸出用としての価値
全損車といえども、「パーツ単体の価値」や「車種によっては海外需要」があるため、価値ゼロとは限りません。
パーツとして価値がある例
- エンジン・ミッション(損傷の少ない部分)
- ホイール・タイヤ・電装系
- ドア・ガラスなど外装部品
海外で人気の日本車例
- トヨタ ハイエース・ランドクルーザー
- 日産 キャラバン
- 軽自動車(アジア・アフリカ向け)
こうした車種の場合、廃車よりも高値で売れるケースもあるため、複数業者に査定依頼するのがおすすめです。
廃車と買取、どちらが得になる?
どちらが得かは「車の損傷具合・車種・年式・パーツ状態」によります。
条件 | 廃車(解体)がおすすめ | 買取(売却)がおすすめ |
---|---|---|
車がほぼ原形をとどめていない | ○ | ✕ |
部品が再利用できる・人気車種である | ✕ | ○ |
手続きが面倒・急いでいる | ○(業者に任せる) | ○(業者による) |
還付金を確実に受け取りたい | ○ | △(条件次第) |
どちらの方法も「無料引き取り」「手続き代行」「還付金サポート」などが可能な業者を選ぶことで、損を防ぐことができます。
事故から廃車・次の車購入までの流れまとめ
交通事故で車が全損になると、突然さまざまな対応が必要になります。以下の流れに沿って行動すれば、損失や手間を最小限に抑えることができます。
事故発生〜保険会社とのやり取り
事故が発生したら、まずは安全確保と事故処理が最優先です。その後、保険会社とのやり取りを迅速に行いましょう。
初動の対応
- 安全確認と二次被害の防止
車を路肩に寄せる・発煙筒や三角板の設置 - 警察へ通報・事故証明の取得
- 相手方との情報交換(氏名・連絡先・保険情報など)
保険会社への対応
- 保険会社に連絡し、事故の状況を報告
- 損害調査が行われ、修理費・時価が比較される
- 修理費>時価 であれば「全損」と判断される
事故発生から数日内に損害の認定と今後の方針(修理 or 廃車)が決まるケースが多いです。
全損認定〜廃車手続き・売却
全損と認定された後は、車の処分(廃車・売却)と保険金の受け取りに進みます。
選択肢
- 廃車:保険会社が引き取り処分する、または自身で業者に依頼
- 売却:全損車専門の買取業者に査定してもらう
手続き
- 車検証・委任状・印鑑証明などの提出
- ナンバープレート返納(抹消登録)
- 自動車税・重量税などの還付手続き(普通車のみ)
※事故の処理と並行して進める必要があるため、信頼できる業者に任せることで手間を減らせます。
代車・次の車探しに備えておきたいこと
全損により車が使えなくなると、日常生活や通勤に大きな支障をきたすことがあります。そうした事態に備え、早めの対応が重要です。
まず、代車の手配についてですが、自動車保険に「代車特約」が付いていれば、一定期間無料で代車を利用できる場合があります。ただし、特約が付いていない場合はレンタカーを自費で手配する必要があり、その際の費用負担や日数制限について事前に確認しておきましょう。
次に、次の車の購入準備についてです。保険金の入金前であっても、おおよその査定額がわかれば、その金額を予算の目安にして買い替えの検討を進めることが可能です。ただし、「事故で車がないからすぐに必要」という焦りから、十分な検討をせずに高額な車を急いで購入するのは避けるべきです。
特に中古車を購入する場合は、年式や走行距離だけでなく、修復歴の有無や保証内容などもしっかりチェックし、納得できる車を選ぶようにしましょう。慎重な判断が、後悔のない買い替えにつながります。
全損後も慌てず、正しい手続きで損をしない選択を
事故で車が全損になると、精神的にも金銭的にも大きなダメージがあります。しかし、対応を間違えなければ、余計な損失を防ぐこともできます。
損をしないためのポイント
- 保険会社任せにせず、自分でも相場や選択肢を調べる
- 「廃車=0円」ではない。パーツ価値・買取価格に注目する
- ローン残債や税金の還付手続きにも注意を払う
- 事故処理・手続きの負担を軽減したい場合は、専門業者の活用を検討
事故や全損は予測できませんが、事前に知識を持っておくだけでも冷静な判断が可能になります。
正しいステップを踏み、次のカーライフへの第一歩を無駄なくスタートさせましょう。