トンネル照明の色が違うのはなぜ?
トンネルの照明に「オレンジ色」や「白色」が使われているのは、運転者の見え方を最適化し、安全性を高めるためです。
かつてはナトリウム灯によるオレンジ色が主流でしたが、現在はLEDの普及により白色照明が増えています。
色に違いがあるのはデザインではなく、明るさの調整・視認性の確保・エネルギー効率など、道路環境に応じた“役割の違い”があるためです。

色分けされる背景と目的
トンネル内は、外の明るさや景色が一気に変化する特殊な空間で、運転者の目に大きな負担がかかります。
そのため、照明の色や明るさは「どれだけ見やすい環境をつくれるか」を基準に設計されています。
特に入口と出口は外光との差が大きいため、運転者が瞬間的にまぶしさを感じたり、逆に暗さで視界が奪われたりしないよう、外の明るさに合わせて段階的に照度が調整されます。これが“適応照明”と呼ばれる仕組みです。
また、トンネル内部は壁や路面が単調で、影が出にくい環境でもあるため、照明の色によって車の動きや障害物の輪郭が分かりやすくなるよう工夫されています。さらに、長い距離を一定の明るさで照らす必要があるため、消費電力の少ない方式が選ばれるなど、エネルギー効率も重要な要素です。
こうした背景から、照明の色は「なんとなく選ばれている」わけではなく、視認性を高め、事故のリスクを下げ、さらに省エネにも配慮した結果として使い分けられています。色分けは運転者の負担を最小限に抑えるための、計算された安全設計なのです。
視認性・安全性・省エネの観点で使い分けられている理由
照明の色によって、見え方や明るさの効率が変わります。その違いを踏まえて使い分けが行われています。
- 視認性:白色LEDは自然光に近く、標識や路面の色が識別しやすい
- 安全性:オレンジ色は影がくっきり出るため、障害物の立体感が把握しやすい
- 省エネ:LEDは消費電力が少なく、寿命も長く、維持管理コストを抑えられる
このように色の違いには「視認しやすい場面」「安全を確保しやすい場面」「省エネが必要な場面」それぞれへの最適化という明確な理由があります。
トンネル環境や交通量、構造に応じて、最も適した色が選ばれているのです。
オレンジ色(ナトリウム灯)が使われてきた理由
かつて多くのトンネルで採用されてきたのが、いわゆるオレンジ色の光を発する高圧ナトリウム灯です。
高圧ナトリウム灯とは?特徴と仕組み
高圧ナトリウム灯は、ランプ内部のナトリウムなどの金属蒸気を高圧で放電させて発光させるタイプのガス放電灯です。
放電によって特定の波長帯域が強く放たれるため、特徴的なオレンジ色の光になります。
構造は比較的単純で、点灯から安定した光を得やすく、当時の技術・コスト条件の下で道路照明に適していました。また、霧や雨といった視界の悪化に対して光が比較的減衰しにくい性質があり、悪天候でも路面を照らし続ける利点がありました。
見え方の特徴(高いコントラストと影の強さ)
高圧ナトリウム灯の照明は、光の性質上、明暗の差(コントラスト)が強く出やすい傾向があります。
これにより路面上の突起や障害物の輪郭がはっきり見え、車両の形状や動きの輪郭も分かりやすくなります。
逆光や乱反射が少ない場面では、オレンジ色の中でも影が明瞭になり、ドライバーが物体の立体感を把握しやすいという視覚上のメリットがありました。
一方で、色再現性は自然光や白色光に比べて低いため、標識や細かな色の識別には限界があります。
長寿命・省エネで採用が広がった経緯
高圧ナトリウム灯が広く採用された背景には、当時のランプとしては比較的高い光束効率と長寿命、そして耐候性の高さがありました。
初期の設置コストや交換頻度を抑えられるため、長距離を照らす道路やトンネルの用途と相性が良かったのです。さらに、設置・保守の面でも技術的に成熟しており、安定した光を長期間供給できることでメンテナンス計画が立てやすい点も評価されました。
こうした要因が重なり、オレンジ色のナトリウム灯はトンネル照明の標準的な選択肢となっていきました。

白色(LED)照明が増えている理由
近年のトンネル照明は、従来のナトリウム灯から白色のLEDへと大きく移行しています。
LEDは光の質、エネルギー効率、維持管理のしやすさといった点で優れ、道路インフラ全体のアップデートの中心となる存在です。
LEDが採用される技術的背景
LED(発光ダイオード)は、半導体を利用して電気を直接光に変換する仕組みを持つ照明です。
この仕組みにより、従来の放電灯と比べてエネルギーのロスが少なく、安定した白色光を効率的に発することができます。また、点灯直後から明るさが安定し、振動や衝撃にも強い構造を持つため、道路・トンネルといった厳しい環境での使用に適しています。
技術の進歩に伴い、十分な光量が得られるようになったことで本格的な普及が進みました。
自然光に近く見やすい・標識の視認性が高い
LED照明は、白色光のため色の再現性が高く、路面の状態や標識の色を自然に近い形で見ることができます。
特に青、赤、黄色といった交通標識の識別性が向上するため、判断が素早く正確に行える点は大きなメリットです。さらに、光のムラが少なく均一に照射しやすい特性があり、影が強く出にくいため、運転中の目の負担が軽減されます。
トンネル入口付近との明るさの調整(適応照明)にも対応しやすく、全体として視認性と安全性の向上に貢献しています。
省エネ性能・維持管理コストの低減
LEDの最大の強みのひとつが、省エネ性と寿命の長さです。消費電力が従来灯より大幅に少ないため、長いトンネルであっても電気使用量を抑えられ、運用コストを削減することができます。また、寿命が長く交換頻度が少ないため、作業のための交通規制や点検コストを減らせる点も重要です。
結果として、照明の更新にかかる総合的な費用を抑えつつ、安全で快適な明るさを確保できることから、LEDへの切り替えが急速に進んでいます。
色の違いによる「運転のしやすさ」への影響
トンネル照明の色は、運転中の見え方や安全性に大きく影響します。
オレンジ色と白色、どちらが運転しやすい?
一般的には、白色のLED照明の方が「自然に近い見え方」で判断しやすいと言われています。ただし、ナトリウム灯にも影の輪郭がはっきりするという特性があり、環境によってはメリットが感じられる場合もあります。
色の違いが運転に与える影響を理解するため、以下で具体的に比較します。
視認性の比較(影・路面・障害物の見え方)
| 項目 | オレンジ色(ナトリウム灯) | 白色(LED) |
|---|---|---|
| 影の出方 | 影が濃く輪郭がはっきりしやすい | 影が柔らかく、全体を均一に照らす |
| 路面の見え方 | 凹凸や障害物の影が強調されて見える | 色の再現性が高く、路面の質感が自然に見える |
| 標識・表示 | 色の識別がしにくい場合がある | 白色光のため標識の色が見やすく識別しやすい |
| 視界の明瞭さ | コントラストが強いため一部が暗く感じることがある | 明るさのムラが少なく全体が見通しやすい |
目の疲れやすさ・安全性への影響
白色のLED照明は光が均一に広がるため、周囲の明るさに目が順応しやすく、長いトンネルでも疲労を感じにくい環境を作りやすい特徴があります。
一方、ナトリウム灯は影のコントラストが強くなるため、視界全体の明るさにムラが出やすく、状況によっては目の負担が大きくなることがあります。
近年LED化が進む背景には、省エネ性だけでなく、このような運転しやすさ・安全性の向上も大きく関係しています。

トンネル入口・中央・出口で照明が変わる理由
トンネル内の照明は、どの区間でも同じ明るさ・色ではありません。
入口・中央・出口では役割が異なるため、それぞれに最適化された照明が設計されています。これにより、急激な視覚負荷を避け、運転中の安全性を確保しています。
入口が明るく白っぽい「適応照明」が必要な理由
外の強い自然光から薄暗いトンネル内に入ると、視界が一時的に暗く感じる「ブラックホール現象」が起きます。
これを防ぐため、入口付近の照明は外の明るさに近いレベルまで引き上げられ、白っぽい光で視界全体を均一に照らします。
明るさを高めることで、外との明暗差をやわらげ、運転者の目がスムーズに順応できるように設計されています。
トンネル中央部で一定色・明るさになる理由
トンネル内部の中央部は外光が届かないため、環境が常に安定しています。
そのため、入口より明るさを抑えた、一定の色と照度で走行空間を均一に照らします。
照明が均等であることで、影のムラが減り、路面や前方の車が見やすくなります。また、省エネや照明機器の負担軽減にもつながるため、この区間は最も効率重視の照明設計となります。

出口付近で再び明るさが変わる仕組み
出口では、逆に外が急に明るく見えすぎる「ホワイトホール現象」が起こることがあります。
これを防ぐため、出口手前から徐々に照明の明るさを下げ、外光へ自然に移行できるよう調整されています。
照明の減光は段階的に行われ、外に出た瞬間に視界が極端に眩しくならないよう工夫されています。この連続した調整により、入口から出口まで運転者が無理なく視界を保てる環境が整えられているのです。
現在主流のトンネル照明はどれ?
国内では、トンネル照明の主流が「オレンジ色のナトリウム灯」から「白色のLED」へ大きく移行しています。
安全性や省エネ、維持管理のしやすさが重視され、国・自治体・NEXCOなどで計画的な更新が進められています。
国や自治体でのLED化が進む現状
国土交通省や各自治体は、エネルギー消費を抑えつつ視認性を高める目的で、道路トンネルの照明をLEDへ切り替える方針を進めています。
LEDは白色光で見やすく、省エネ効果が高いことから、既存トンネルの更新工事でも優先的に採用されるようになりました。
新しく建設されるトンネルの多くは、当初からLEDを前提とした照明計画が組まれています。
ナトリウム灯からLEDへの置き換え状況
以前は高圧ナトリウム灯が主流でしたが、現在は更新時期を迎えたトンネルを中心にLEDへの交換が進んでいます。
ナトリウム灯は長寿命で信頼性が高い一方、発色が単色に近いため視認性や色の識別性に課題がありました。
LED化によって標識や障害物が見やすくなるほか、照明の寿命がさらに伸び、メンテナンスの頻度を減らせる点でも更新のメリットが大きいとされています。
今後のトレンド(完全LED化・調光型システムなど)
今後はLED化がさらに進み、ほとんどのトンネルが「白色LED」を標準とする方向に向かうと考えられています。また、外光の明るさに合わせて照度を自動で調整する「調光型システム」や、非常時に強く発光する高演色タイプのLEDなど、新しい技術の導入も進められています。
これにより、安全性の向上と省エネルギーの両立がさらに期待され、トンネル照明はより洗練されたものへと進化していく流れです。
照明色の違いによるメリット・デメリットまとめ
オレンジ色(ナトリウム灯)のメリット/デメリット

オレンジ色の高圧ナトリウム灯は、以前のトンネル照明で主流だった方式です。
視界をくっきり見せる特性や電球寿命の長さが評価され、多くのトンネルで採用されてきました。しかし、色の識別がしにくいなど、運転環境としては現代の基準では課題も残ります。
メリット
- 影が強く出るため、車や障害物の輪郭が分かりやすい
- 光の届き方が均一で、路面の凹凸が見えやすい
- 長寿命でランプ交換の頻度が少ない
- 消費電力が従来蛍光灯より少なく、省エネ性が高い
デメリット
- 色の識別がしにくく、標識や路面の色が分かりづらい
- オレンジ色特有の光で、長時間走行すると疲れを感じやすい
- 新設設備としては古い方式になりつつあり、更新が進んでいる
白色(LED)のメリット/デメリット

白色LED照明は、現在のトンネルで急速に普及している方式です。自然光に近い見え方で標識や路面をはっきり認識できるため、安全性向上の面でも高く評価されています。ただし、導入コストや光の影の出方など、注意点もあります。
メリット
- 自然光に近く、標識や路面の色が正確に見える
- コントラストが鮮明で、全体が見渡しやすい
- 消費電力が非常に低く、長寿命でコスト削減に効果的
- 明るさを細かく調整でき、入口や出口の適応照明にも向く
デメリット
- 影が柔らかくなるため、ナトリウム灯に慣れた人には違和感を感じることがある
- 初期導入コストが比較的高い
安全性・快適性・省エネの観点での比較表
| 項目 | オレンジ色(ナトリウム灯) | 白色(LED) |
|---|---|---|
| 見やすさ・視認性 | 影が強く輪郭は見やすいが、色の識別が弱い | 自然光に近く、標識・路面の識別がしやすい |
| 運転のしやすさ | やや疲れやすいと感じる場合がある | 明るく見渡しやすく、長時間でも疲れにくい |
| 省エネ性 | 蛍光灯より省エネだがLEDには劣る | 非常に省エネでランニングコストが低い |
| 寿命 | 長寿命 | さらに長寿命で交換頻度が少ない |
| 導入のしやすさ | 古い設備では互換性があるため導入しやすい | 初期コストは高めだが、更新時の選択肢として主流 |
まとめ:トンネル照明の色は安全のために最適化されている
トンネル照明の色が場所ごとに異なるのは、運転者が安全に走行できるよう綿密に計算された設計によるものです。
オレンジ色のナトリウム灯は長く使われてきた実績があり、白色LEDは視認性や省エネ性に優れていることから現在の主流になっています。
色の違いには明確な役割があり、どちらも「安全性を高める」という同じ目的を持っています。








