水素自動車vsEV:性能と環境のデメリット
水素自動車とは?
水素自動車(FCV=Fuel Cell Vehicle)とは、水素と酸素の化学反応によって電気をつくり、その電力でモーターを動かす自動車です。ガソリン車やハイブリッド車と異なり、排出されるのは水だけという特長から、環境負荷の少ない次世代自動車として注目されています。
同じく電動で走るEV(電気自動車)と比べられることが多いものの、水素の供給インフラや燃料コスト、安全性などに関して、課題も残っています。
なぜ今、水素自動車のデメリットが注目されているのか
近年、脱炭素社会の実現に向けて各国が「エンジン車の販売終了目標」などを打ち出す中、次世代エネルギー車の選択肢としてEVとともに水素自動車への関心が高まっています。
その一方で、水素ステーションの整備が追いつかないことや、車両価格の高さ、製造段階での環境負荷など、現実的なデメリットも浮き彫りになっています。
特に2020年代後半に差し掛かる今、水素社会の構築に向けた課題が本格的に議論され始め、「EVとの比較」においてもその実用性が問われるようになっているのです。
1. 購入価格が高い|初期コストのハードル
車両価格はEVやガソリン車と比べてどう違う?
水素自動車の代表格である「トヨタMIRAI」や「ホンダ クラリティ FUEL CELL」は、新車価格が700万円前後と、EVやガソリン車と比べて非常に高額です。
車種 | 新車価格(目安) |
---|---|
トヨタ MIRAI | 約720万円~ |
日産リーフ(EV) | 約330万円~ |
トヨタプリウス(HV) | 約300万円~ |
一般的なガソリン車 | 150~300万円 |
車両価格の高さは、燃料電池システムや高圧水素タンクといった特殊部品に起因しており、大量生産が進んでいない現段階ではコスト削減が難しいのが現状です。
補助金制度はあるが、それでも高額?
水素自動車には国や自治体からの購入補助金があります。たとえば、日本国内では国の「CEV補助金」により最大約200万円が支給されるほか、都道府県や市区町村が独自に数十万円の補助を出しているケースもあります。
しかし、補助金をフル活用しても自己負担は500万円前後にとどまり、一般的なEVやガソリン車と比べて依然として高額です。また、補助金制度は予算枠があり、いつでも誰でも受けられるわけではない点も注意が必要です。
2. 水素ステーションが少ない|インフラの未整備
全国の水素ステーション数と分布
2025年現在、日本国内に設置されている水素ステーションの数は約170か所前後にとどまっています。東京都、愛知県、大阪府といった大都市圏を中心に集中しており、全国的に見ると「片道走行に不安を覚える」レベルでしか整備されていません。
EVの充電スタンド(約30,000基超)と比較すると、水素ステーションのインフラ整備はまだ黎明期にあります。
地方では実用が難しい理由
都市部ではなんとか通勤・買い物用途で使えるものの、地方では水素ステーションまで片道数十kmというエリアも珍しくありません。
そのため、日常的な使用には「水素切れの不安」が付きまとい、遠出や旅行には事実上使用できないケースもあります。
また、水素ステーションの営業時間が限られており、ガソリンスタンドやEV充電器のように24時間使えないのも大きなネックです。
将来的なインフラ整備の見通しは?
国は2030年までに水素ステーションを1,000か所へ拡充する方針を示しており、水素社会の構築を政策的に支援しています。
しかし現実的には、建設コスト(約4〜5億円/1か所)や運営採算の問題から、民間企業の参入が進みにくく、拡大ペースは計画を下回っているのが実情です。
このため、当面は「都市部限定の実用車」としての域を出にくいというのが、多くのユーザーの認識です。
3. 燃料・維持コストが読みにくい
水素燃料の価格と変動性
水素自動車の燃料となる水素は、1kgあたり約1,100〜1,300円程度が相場で、トヨタMIRAIのような車では満タンで約6kg=7,000〜8,000円程度かかります。
走行距離は満タンで約650km程度とされており、ガソリン車やEVに比べて燃費的には同等〜やや割高程度ですが、価格が安定しておらず将来的な見通しが立てづらいのが課題です。
特に現在主流の「グレー水素(化石燃料由来)」では原油価格と連動することもあり、今後の価格動向に不透明感があります。
維持費・整備費用は本当に安いのか?
水素自動車は「モーター駆動」のためエンジンオイル交換などが不要であり、理論上はEVと同様にメンテナンスコストが抑えられるとされています。
しかし、水素タンクや燃料電池スタックといった特殊パーツの修理・交換は高額で、故障時のコストは予測しにくいのが現実です。
また、整備できる工場も限られており、万が一の故障時に専門施設まで車両を輸送する手間と費用がかかるケースもあります。
4. 安全面への不安が根強い
水素は爆発しやすい?安全対策は?
水素は可燃性が非常に高く、空気中で一定濃度になるとわずかな火花で爆発する性質を持っています。そのため、「水素=危険」というイメージが根強く残っています。
しかし実際には、自動車用の水素タンクは700気圧に耐える強化カーボン製であり、衝突・火災・落下・銃撃といった各種試験にも合格した堅牢な構造です。
また、万が一漏れた場合も、空気中にすぐ拡散する性質のため燃焼範囲は限定的で、密閉されたガソリンの方が火災リスクは高いとする専門家もいます。
とはいえ、これらの知識が一般に十分浸透しておらず、「水素=爆発のリスク」という印象は払拭しきれていないのが現状です。
事故時のリスクはEV・ガソリン車と比べてどうか?
水素自動車は、事故時に水素が漏れると即座にセンサーが検知し、自動的にバルブが閉じて供給を止める仕組みが搭載されています。
また、火災を防ぐ構造設計が徹底されており、実走行中の事故で水素タンクが破裂した事例は世界的にも極めて稀です。
一方で、EVはリチウムイオンバッテリーが熱暴走を起こす火災事故が国内外で複数報告されており、ガソリン車も漏洩による延焼リスクがあります。
つまり、技術的には水素車も十分な安全対策が施されている一方で、「感情的な不安」や「未知のエネルギーに対する警戒感」がユーザー心理に影響を与えています。
5. 性能や寿命に対する不安
寒冷地での使用や長距離走行性能は?
水素自動車は、基本的にEVと同様にモーターで駆動するため、寒冷地では燃料電池の起動が遅れたり、航続距離が短くなるといった課題があります。
特に外気温が氷点下を下回る地域では、燃料電池スタックの加温に電力が必要となり効率が低下しやすいのです。
ただし、現行モデルでは寒冷対策が進んでおり、北海道でも走行テストをクリアした実績があります。
また、走行距離に関しては、トヨタMIRAIで満タン約650kmと、EVよりも長距離向きのスペックを持つ車種も増えてきています。
燃料電池やタンクの寿命・交換費用について
水素自動車の心臓部である燃料電池スタックには寿命があり、一般的には約10年または16万km程度で性能が劣化するとされています。
また、高圧水素タンクも定期点検や耐用年数の上限があり、車検時に厳しいチェックが行われます。
部品の交換費用は現時点で公表されていないケースが多く、実際に費用がどの程度かかるのかが不透明であることも、ユーザーの不安要素となっています。
加えて、専門整備士が限られているため、対応可能な整備工場が都市部に偏っていることも課題です。
6. 環境負荷がゼロではない|製造過程の問題
水素の製造方法とCO₂排出
水素自動車は走行中にCO₂を一切排出しない「ゼロエミッション車」としてPRされがちですが、問題はその水素をどうやって作るかにあります。
現在主流の水素製造方法は、「化石燃料から取り出すグレー水素」です。
具体的には、天然ガスの改質や石油副産物からの抽出が多く、水素1kgを製造するために約10kgのCO₂が排出されるケースもあります。
つまり、走行時はクリーンでも、製造過程で大量の温室効果ガスが排出されているため、「本当にエコなのか?」という疑問が生じています。
「グリーン水素」の普及状況と課題
真に環境負荷が低いのは、「グリーン水素(再生可能エネルギー由来)」と呼ばれる水素です。
これは風力や太陽光などを使って水を電気分解する方法で、製造過程でもCO₂を排出しないのが大きな特長です。
しかし現状では、
- グリーン水素の製造コストが非常に高い(化石燃料由来の約2〜3倍)
- 再エネの供給体制が安定していない
- グリーン水素の供給インフラが未整備
といった問題があり、普及はまだごく一部に限られています。
国際的な取り組みや政府の支援策が始まりつつありますが、実際のCO₂削減効果が大きくなるのは2030年以降と予測されており、それまでは「環境負荷ゼロ」とは言い切れないのが実情です。
7. 車種が限られている|選択肢が少ない現状
現在国内で購入できる水素自動車一覧
水素自動車の最大の課題の一つが、選べる車種が極端に少ないことです。
2025年現在、日本国内で一般消費者が購入できる量産型水素自動車は以下の2車種が代表的です。
メーカー | モデル名 | タイプ | 価格帯(税込) |
---|---|---|---|
トヨタ | MIRAI(ミライ) | セダン | 約710万〜860万円 |
ホンダ | CR-V e:FCEV | SUVタイプ(限定販売) | 一部リース販売 |
現状では乗用車モデルがごく限られており、軽自動車・ミニバン・商用車など多様なニーズに応えるモデルが存在しないことが購入検討者の足かせになっています。
今後の新型モデル・展開予定は?
水素自動車の普及に向けて、各メーカーは新型モデルの開発や導入計画を発表しています。
- トヨタは商用バン「ハイエース」のFCEV(燃料電池車)バージョンを開発中
- 日産はFCEV市場には現在不参加だが、将来的な参入の可能性を模索
- ホンダは2024年から北米で新型CR-V FCEVを導入し、国内でも今後展開予定
- 海外メーカー(ヒュンダイやBMWなど)も欧州向けに水素モデルの拡充を進めているが、日本導入の予定は不透明
とはいえ、これらはまだ一部が試験販売・法人向け中心であり、一般ユーザーが自由に選べる段階には至っていません。
多くの人にとって、「欲しい車が水素自動車にない」ことが導入をためらう大きな理由となっています。
EVとの違いと比較ポイント
インフラ/走行距離/充電時間/環境性で比較
比較項目 | 水素自動車(FCEV) | EV(バッテリー式電気自動車) |
---|---|---|
インフラ | 水素ステーションが極めて少ない(約160か所) | 急速充電器が全国に1万基以上(普及が進行中) |
走行距離 | 1回の水素充填で約650〜850km走行可能 | 車種により300〜600km程度 |
充填・充電時間 | 約3〜5分で満タン | 急速充電で30〜60分、普通充電は数時間 |
環境性 | 走行時ゼロエミッションだが製造でCO₂排出 | 発電方法次第で排出あり、再エネ利用で低減可能 |
総合すると、
- 都市部や特定の用途(長距離走行・短時間補給)では水素車が有利
- 日常使いやインフラの整った地域ではEVの方が導入しやすい
EVと水素車、それぞれに向いている人とは?
水素自動車が向いている人
- 長距離ドライブや業務使用が多い
- 充電時間をできるだけ短くしたい
- 自宅に充電設備が設置できない
- 新技術や将来性に投資する意識がある
EVが向いている人
- 日常の通勤や買い物がメイン
- 自宅または近隣に充電インフラが整っている
- 初期費用をなるべく抑えたい
- 静音性や電気ならではの走行感を求めている
それぞれに「得意分野」があり、どちらが優れているかはライフスタイルによって異なります。一概な優劣ではなく、適材適所の選択が重要です。
水素自動車の将来性はあるのか?
政府のロードマップとメーカーの動向
日本政府は、脱炭素社会の実現に向けて水素社会構想を掲げており、次のような計画を打ち出しています。
- 2030年までに水素ステーションを1,000か所に拡充
- 燃料電池車(FCEV)を80万台導入目標
- グリーン水素製造への補助金制度や研究支援
また、トヨタ・ホンダを中心に国内メーカーも積極的で、商用車(バス・トラック)や海外提携による技術開発も進んでいます。
特に商用分野では、水素の「長距離+短時間補給」の特性が活かされやすく、先行して実用化が進む可能性が高いと見られています。
2030年以降の普及予測と技術革新
水素自動車の普及は現在のところ限定的ですが、2030年以降に以下の要素が整えば飛躍的に広がる可能性があります。
- グリーン水素の低コスト化・量産体制確立
- 水素ステーション網の全国整備
- 製造・整備コストの低下
- 安全技術のさらなる進化と実績
また、中国・欧州・韓国などでも水素技術への注目が高まりつつあり、グローバルでの開発競争が加速しています。
ただし現時点では、「商用車向け中心」「普及には時間がかかる」という前提を踏まえて、中長期的視点で見守る必要があります。
デメリットを理解したうえでの選び方
水素自動車に向いている人の特徴
水素自動車はまだ万人向けとは言いづらいものの、次のような条件に当てはまる人には有力な選択肢となり得ます。
- 水素ステーションが生活圏内にある
- 年間の走行距離が長く、補給時間を短く済ませたい
- 次世代エネルギー車に強い関心がある
- 将来の環境規制に備えて、先行投資を考えている
- 補助金制度や法人減税を活用できる事業者
つまり、水素インフラにアクセスしやすく、車の使用頻度が高い人や、最先端の技術を体験したい人に向いていると言えるでしょう。
今は様子を見るべき?購入判断のポイント
一方で、次のような方はもう少し慎重に検討してもよい段階です。
- 最寄りに水素ステーションがない
- 補助金がなければ予算的に厳しい
- EVやハイブリッド車でも満足できる走行スタイル
- リセールバリューや維持費の見通しが気になる
現状ではEVのほうが実用面や価格面で選びやすいというのが一般的です。
ただし水素技術は着実に進化しており、今後数年で選択肢が広がる可能性は十分あります。
そのため、「今すぐ必要ならEV」「将来の技術に期待するなら水素車」という選び方も一つの判断軸になります。
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